うちの子、当たってないのに一本取られて負けてしまったんですよ。
そんなことあるんですか?
剣道のルールって難しいですね。
一本の基準って曖昧ですよね。
そうなんです。お母さん方が剣道の試合を見ていても、何が一本なのかわからないという声はよく聞きます。単に竹刀が面や甲手、胴に当たっているだけでは一本にはなりません。
また、逆に今回のAママさんのように、当たっていなくても一本になることもあるのです。非常に解り辛いかもしれませんが、この解り辛いところが剣道の醍醐味とも言えるのです。
というわけで、今日は
剣道のルールにおける一本
というものについて考えてみましょう!!
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有効打突とは
一本と言う表現は実は剣道のルールの中では使われません。一本のことを正しくは有効打突(ゆうこうだとつ)と言うのですが、逆に有効打突という表現は日頃使いません。
指導する中でも「一本になる打ちをしなさい!」とか言ってしまいますよね。でも、正しくは有効打突のことを指すので、それだけ覚えておいてください。
では、『有効打突とは何か?』ということですが、試合審判規則にはこう書かれています。
有効打突は、充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるものとする。
これが一本になる条件です。非常に解り辛いので詳しく見ていきたいと思います。
充実した気勢とは
気勢というのは、簡単に言うと、声を出しているかということです。個人的には声なんて出さなくても良いと思うのです。相手に気迫を感じさせることができれば。
でも、やはり気迫というのは審判員からは声でしか推し量ることができないというだけの話です。お互いに真剣勝負なら声を出しているか否かなんていうのは関係ありません。
ただ、審判をする上でわからないから声を出してくださいっていう話だと思うのです。凄い達人になってしまえば、声なんて出さなくても圧倒的な威圧感があると思います。それこそが気迫、気勢ですよね。
ただ、我々凡人にはなかなか辿り着けない領域だと思うんですよ。だから声を出すんですね。
この時の注意点があります。近年の審判講習ではよく注意を受けるのですが、打突部位をはっきりと呼称することと言われます。
つまり、「面!」と言いながら小手を打って当たったとしても一本にはならないというルールなのです。それは自分の意思と違うところに当たったという認識ですね。
気・剣・体の一致とよく言われますが、呼称した部位と違うところを打つということは、気と剣が一致していないという風に捉えられてしまうのです。
これは審判規則ではなく「剣道試合・審判・運営要項の手引き」というものに書かれています。そして、審判員はこのことを熟知しています。
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適正な姿勢
適正な姿勢は言い換えれば正しい姿勢ということになります。正しい姿勢と言うのは、打突したときの体勢と打突方向が一致し、体勢が安定しているということです。
簡単に言うと、
ということですね。
他に変な姿勢というのはなかなか思い浮かばないのですが、要するに構えたままの姿勢を保つということです。
竹刀の打突部で刃筋正しく
剣道のルール上、一本にするには「竹刀の打突部で刃筋正しく」と書かれています。では竹刀の打突部とは、刃筋正しくとはどういう状況を言うのでしょうか?
竹刀の打突部
竹刀の打突部というのは物打ちとも言われます。つまり、刀なら一番切れる部分ですね。一番切れる部分で相手を切らなければ一本とは認めないということです。
竹刀の打突部というのは、刀で言うところの刃にあたるので、竹刀ではつる(弦)の反対側になります。その中でも先側から中結までの位置になります。
刃筋正しく
刃筋正しく打突するというのは、刀で言ったら、刃の向きに対して切れるな方向に刀を振るということです。
つまり、刀の刃が下を向いている状態で横向きに刀を振ったところで切るということはできませんよね。それと同じです。竹刀を振る方向が正しくなければ切れないので一本にはならないということになります。
打突部位
打突部位とは面・小手・胴・突きの4か所のことを言いますが、実は細かく決められています。
面は正面だけじゃない!
面に関しては面の頂点から左右に45度までの範囲と決められています。意外と知られていないのですが、左右面についても正しく打突すれば一本になります。
しかし、審判員側とすると、左右面は非常に解り辛いので、見落とされる場合もあります。要注意ですね。
小手は小手筒のみ有効
小手の打突部位は基本的には右小手の小手筒部分のみです。拳部分は一本とは認められません。また、基本的に右小手と書いたのは、左小手も一本となり得る場合があるからです。
お互いに中段の場合は有効となるのは右小手ですが、中段でない場合には左小手も有効となります。つまり、上段の構えや二刀流などですね。
また、三所隠しと呼ばれる状態になった場合も、中段の構えではなくなっているので左小手が有効になります。
とは言っても、咄嗟に左小手は打てませんが。(笑)
胴は左胴(逆胴)も有効
胴は右胴、左胴共に有効ですが、左胴はなかなか一本にはなりにくいでしょう。
色々な考えがありますが、元々は左腰には刀を入れる鞘があるということを想定している為、相当強い打ちでなければ認められないということを聞いたことがあります。
その説が正しいか否かはわからないのですが、右胴よりもしっかりと綺麗に当たらないと旗も上がりにくいように思います。
突きは的が小さいので危険?
突きは高校生以上のみ有効となります。突きは打突部位の中では最も小さな部分であり、当たらなかった場合は危険という配慮から、中学生以下の試合では認められていません。
高校生以上であっても、未熟な技術で打つということは危険な技なので注意しましょう。
残心
残心とは、相手の反撃にいつでも対応出来るように心を緩めないということです。残心という文字は「心を残す」と書きますが、実は「心を残さない」ように全てを掛けて打突することによって、打突後には自然と次の攻撃に備えて「心が残る」という意味なんだそうです。
ですから、残心の無い打突と言うのは、いくら綺麗に決まっていたとしても、一本になりません。
残心というのは言葉で説明するのは非常に難しいのですが、簡単に言うと打った後に油断をするなという意味です。残心についてはこちらの記事に詳しく書きましたので参考にしてください。
一本になる為の要素
打った打突が一本になるには、上記の条件の他に一本になる為の要素というものがあります。
要素というのは、間合・機会・体さばき・手のうちの作用・強さと冴えのことです。これらの要素も加味した上で、上記の条件を満たしている打突のみを一本と認めるということなんですね。
非常に難しいですが、試合で一本になるような打突は自然とこのような条件と要素が満たされているということになります。
まとめ
今日は、剣道のルールにおいて一本(有効打突)の条件について考えてみました。詳しく説明してきましたが、要するに基本稽古と同じように気剣体一致の打突ができていれば一本になるということなのです。
ですから、例えば小学校低学年の一本と、高校生の一本というのは明らかに違うものになります。一本の条件というのはレベルによって違ってくるのです。試合者のレベル、大会のレベルによって大きく左右されます。
全く同じ打突だったとしても、この前の大会では一本だったものが今度の大会でも一本になるとは限らないのです。
この辺りが非常に曖昧なのですが、逆にこの曖昧さがなければ剣道は成立しないのではないかと思います。機械的に当たったか否かという判定だけではなく、総合的な判断が必要となってきます。
また、全日本剣道選手権のテレビ放送を見ていても、「今のは誤審だろう!!」と感じることがあるかもしれません。しかし、それも明らかな誤審とは言い切れない部分があります。
それは、打突前の攻めの時点からの総合的な判定だからということですね。単に当たった、当たってないということだけでは片付けられないのです。
これは小学生の地方大会でも同じことが言えます。つまり、打突部位をしっかり捕えていない(当たっていない)のに一本になることは有り得るのです。そして、それは誤審とは言い切れないのです。
難しいところですね。逆に考えると、審判を味方にできるような素晴らしい剣道ができると、優位な立場で試合運びができるのも事実。ですから、周りの人の目を引きつけるような素晴らしい立ち合いができるといいですね。
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コメント
剣道はやったことがなく、ただ格好いいなと思っていてある日ふと考えました。相手が上から竹刀を振り下ろしますそれを正面で受け流し体の流れに乗って横に一回転してそのまま相手の胴を打つ。これって有効になるんですかね?教えて下さい。
いっしーさん、コメントありがとうございます。
ちょっと文章だけでは解り辛いので、コメントに困りますが・・・
面返し胴を打った後にそのまま回転するというものですね。時々見ます。そして、一本になることもあります。
但し、昇段審査などでは評価されないと聞いたことがありますので、あまり良いとは思えません。振り向く方向として、無駄だからだと思いますが。
是非、御自分で体験してみてください。
残心が心を残さないという意味というのは聞いたことがなかったのですが、どのような文献などに記載されているのでしょうか…
ケータイ(初段)様
コメントありがとうございます。この記事を書いた時には少し不勉強だったこともあり、残心について追記させて頂きました。文献ではなく講習会で学んだことを書いたのですが、少し言葉足らずで誤解を招くような表現になってしまいました。申し訳ありません。